野土香



智頭町の中心部から北東に4kmほど離れた山間に板井原集落がある。たかが4kmといってもその道程はすべて急峻な上り坂。杉木立の中の昼間でも薄暗く曲がりくねった山道を登り切ると、車一台がやっと通れるほどの狭い隧道がぽっかりと暗い口を開けて出迎えてくれる。
「千と千尋の神隠し」さながらに、暗闇の先には昭和の始めにタイムスリップしたかのような日本の山村集落の原風景「板井原集落」が現れる。すぐそこに迫り来る山肌に、押しつぶされそうに建っている110棟あまりの家屋。板井原川沿いに建ち並ぶ古民家は築50年以上のものばかりで、中には築250年を越えるものもあるとか。

Keywords:
古民家 カフェ 山の上

どの路地もどの建物もどこを向いてもほんものの世界。朽ちかけている養蚕家屋。板井原川の流れを利用した米つきの水車小屋。その水車で約30時間精米した米を炊く現役のかまど。水筒に詰めたばかりの伏流水を飲みながら路地の途中で立ち止まる。静かでつましい世界。「美しさとは何か」に対する答えが、言葉ではなくカラダから染み込んでくる。

「山の上の喫茶店&ギャラリー 野土香(のどか)」も、築100年の古民家だ。営業時間は、朝から日暮れ頃。格子戸を開け、土間を上がった先の居間がカフェスペース。「癒し」という言葉が浅はかに思えてくるほど空気の密度が違う。空気の粒子一粒ごとに生命があり精霊が跳び回っているようなおとぎ話の世界。窓のすぐ下を流れるせせらぎをBGMに小鳥の鳴き声が間奏に入る。午後5時を過ぎ仕事を終えた集落の住人が一人、また一人と「野土香」に集ってきた。

 

TEXT & PHOTO : ジュリアーノナカニシ

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