「私たちは上流に住んでいるから、下流に住む人々の水を濁してはいけない」



近年、日本各地、そして世界からたくさんの方に視察に来ていただける町になった上勝。年間2,500〜2,600人訪れる視察の人数は、実は、観光で訪れる人数とおよそ同じにまでなっています。視察ツーリズムをとりまとめる事業もでき、多くの方が宿泊も兼ねて滞在してくださる視察産業の成長は、町に経済効果を与えています。上勝にいらっしゃると、独自のビジネスで起業する若手を含むいきいきとした人物に出会うと思います。「上勝には、起業家を育成する仕組みがあるのか?」と聞かれることもありますが、これは、町が取り組んだことではなく、彼ら自身が生んだ流れです。上勝に若い起業家を呼び込む大きなきっかけになったのは、上勝を一躍有名にした葉っぱ産業を行う「いろどり」、そして、景観デザインを行う「環境と町づくり」でしょう。例えば、シェアカフェや上勝百貨店の起業家たちは、いろどりの横石社長の活躍を見て、上勝にやってきた。上勝は家賃も安いですから、スモールオフィスを構えやすいということもきっかけになっているようです。そして、それらの事業一つひとつが、2人、3人と、雇用を生んでいるのです。さらに、彼らの活躍を見てやってこようというさらに若い層もいる。そんなふうに、だれかの活躍を見て、上勝にやって来る若者が続いています。そして、先を走る人が、後に続く人を応援するという美しさもありますね。

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今、上勝が抱える課題は、なによりもまず、後継者不足です。高齢化によって、すべての産業や事業において後継者不足が心配されています。だからこそ、大学生やインターン生たちが上勝にやって来てくれることは嬉しいですね。決してそれを機にすぐに上勝に移るという人を多く期待できるわけではありませんが、若者たちが、上勝に出会う機会が存在することで、それをきっかけにいつか戻って来るかもしれない。だから、「出会い」が一番大切なんです。また、そういった移住者たちが増えていくことを考え、町としても住宅政策に取りかかっています。実は、現在の上勝には住宅が少なく、移住者が住まいを探すのもひと苦労。だから、増えている空家を「空家バンク」として管理し、さらに新しい住宅の建設も進めています。上勝の村民性はと言うと、お年寄りのみなさんは、良すぎるくらい人が良い。ここはこの山の行き止まりにあるような町なので、昔からあまり外からの人の行き来がなかった。そのためか、本当に美しい純粋な心を持った人が多いように思います。案外恥ずかしがり屋さんでもなく、おしゃべり好きさんが多い。道で出会えば、楽しげにあれこれとおしゃべりが続きます。最近では、さまざまな土地や国から観光や視察に来る方が増えて、高齢の方もその出会いを楽しんでいる人も多いですね。言葉が通じないのも、あまり気にならないのか、これまたあれこれとおしゃべりをしています。実は、上勝には、町を代表する大きな伝統芸能のようなものはありません。けれど、少しずつ手をかけられた美しい木々や花があり、棚田がある。一日何もせず、ゆったりといれるような美しい場所です。そして、ゼロ・ウェイストに代表されるような、町人みんなが持っている美しい心得は、世界に誇れるものだと思います。「私たちは上流に住んでいるから、下流に住む人々の水を濁してはいけない」。それが、全ての物事の考え方の軸になっています。そんな精神の美しさを持つこの町で、「こんな美しい村なら住んでみたい」。そんなふうに思ってもらえる町づくりを続けていきたいですね。上勝町 花本靖 町長

 

TEXT & PHOTO : YUKI KAKIHARA

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