店長が集まるカフェ



「本当にこの先にカフェなんてあるのかな……」そう不安になるほど何もない山道を登って行くと、申し訳程度に掲げられた小さな木の看板に「cafe」の文字に出会う。そして、看板をいくつかたどると、古民家が見えて来る。「シェアカフェ『一樹の庥(いちじゅのかげ)』」。東京にいると、探さなくとも見つかるカフェだが、上勝には現在この1軒のみ(2013年5月現在)。センス良く改装された空間で、町内で唯一洋食ランチができる場所ということもあって、なかなか不便な立地にも関わらず、毎日、町内外から人が訪れる。実は、シェアカフェの店長は毎日変わる。私たちが訪れたこの日、忙しそうにキッチンと客席を行き来していたのは、ベジタリアン料理家の石川かずこさん。ひよこ豆で作ったベジ・ハンバーグに新鮮なサラダ、そして、食べ放題の自家製パン。どれも彼女自身が自らの店のメニューとして決めたもの。「東京に長く住んでいたけれど、子どもが大きくなったのを機に新しい生活をしようと場所を探してたどり着いたのが、結局、地元徳島でした。自然豊かな場所でベジタリアンカフェを持つことが夢だから、ここで『1日店長』にチャレンジすることから始めてみようと思って」現在、石川さんを始めとする16人ほどの店長がその日ごとに料理を提供して店を切り盛りしている。

Keywords:
起業家 シェアカフェ 上勝町

「自分で原価計算をして材料を買い付け、メニューを作って食事を出す。初期投資などのリスクもなく、実際にカフェをまわすことができる。開業を夢見る人たちにとっては、貴重な経験になる場所です。同時に、お店の少ない小さな町では毎日違った料理を楽しめるユニークな場所は、お客さんにも喜ばれます」。そう話すのは、このカフェの仕掛人である地域再生コンサルタントの大西正泰さん。個性的なメニューを作り、より良い店にしようと主体的に動く店長が集まるのは、決して偶然ではない。学校教員、中小企業や新規事業に特化したコンサルタントを経て、2012年から上勝町に拠点を移した大西さんの洞察力も大きなキーになっている。「起業家としてのポテンシャルを持った人たちには2通りのパターンがある。自力で起業できる人。そして、きっかけさえあれば起業できる人。田舎に来ると、後者によく出会うんです。きっかけを掴む前のエネルギーを持て余している人たちにね。だから、起業へのハードルを下げることで、挑戦したいという意志のある人が集まり、そのエネルギーを存分に発揮できる舞台にしたんです」上勝町役場も、大西さんの構想に意義を感じ、すぐに補助金を出すことを決定したのだそう。そうして、2012年の暮れにシェアカフェはオープン。町内の起業家マインドを持った人たちのためにとスタートしたシェアカフェ。ところが、意外にも1日店長希望者は、町外からも多くやって来た。さらに、その友人たちが店を訪ねて町外から通ってくれるという思わぬ副産物がついて来た。大西さんの「こんなに山の中だけど、だからこそできることをするんです」という言葉通り、町外からの来客は街灯もなく、川と鳥の声しか聞こえないようなこの立地を楽しみ、町内の人たちは「中心部から離れてゆっくりおしゃべりできる場所」として親しまれている。「『過疎』は上勝だけの問題じゃない。もはや日本全体で起きている問題。だからこそ、他の過疎地でも展開できるようなモデルを作る必要があると僕は思うんですよ。今はまだ、上勝に腰を据えて取り組み始めたばかり。これから仕掛けていきたいこともたくさんありますが、いずれにしても、他の地域で真似できるような汎用性のあるモデルを目指しています」

 

TEXT & PHOTO : YUKI KAKIHARA

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