「ここにあるのは死んどったけど、命をつないだ木なんですよ。」



「野の風は癒しの風となり、人を癒す」。南小国の中湯田地区にある「野風ムラ」には、オーナーの河津耕冶さんが20年以上の歳月をかけて創りだした独特の癒しの世界が広がる。敷地内には小川が流れ、カフェや石窯のパン工房、瞑想の小屋、宿泊スペース、田んぼや菜園などが点在している。建物のほとんどは、河津さんが山から木を伐り出し、自ら建てたものだという。

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河津さんは山で枯れかかった木々を野風ムラの敷地に移植した。「ここにあるのは、全部助かった木です。死んどったけど、命をつないだ木なんですよ。人に助けられた木だからそのご恩返しなのか、疲れてここに来た人を癒してくれるんです」。最初は何もなかった場所だが、木を植えて丹念に手入れを続けるうちに、空に向かって伸びる木々に鳥たちが飛んで来るようになった。木立を揺らす風の音や、小川のせせらぎ、小鳥のさえずり、虫の声。いろいろな動物もやってきて、森はどんどん賑やかになっていった。

「今度は子供たちがここでカフェを始めて、最終的に人が集まるようになりました」。今年7月、同じ敷地内に息子さんと娘さんが「カフェ果林」をオープン。石窯で焼いた天然酵母パンや、地元の素材を生かす洗練された料理に魅了され、訪れるリピーターはあとをたたない。センスが良くてくつろげる空間は家族みんなの協力の賜物だ。河津さんは自然との共生や癒しをめぐる様々な取り組みをしているが、「最も人を癒すのは食事だ」という。「地元の野菜や自分たちで作った食事をみんなで食卓に集まって一緒に食べると、心が開いて和やかになる。その時が一番癒されるし、心に残りますね」。中湯田地区には野風ムラのほかに2軒の農家民泊がある。

そこに「カフェ果林」も加わり、集落のなかで食事や宿泊を通じた人と人との新たな交流が増えることを河津さんは期待している。「この集落で暮らしている16軒は、みんな家族ですよ。いざ何かあったら、家族と同じ助け合いをすると思うし、ひとつの家族よりも16軒が集まった家族のほうが強い。そういう良さを地域づくりで磨いておけば、都会の人が来て感激したり、またここに来たくなる。都会とのギャップがあるほど魅力的で、お互いに分かち合えるものが大きいと思います」。

国内総生産(GDP)よりも、国民総幸福量(GNH)を意識する心豊かな国になれば、世の中はどれだけ暮らしやすくなるだろうか。「今の時代が行くところまで行き着くと、既存の都会の価値観では幸せになれないことがわかるだろう。そして、時代がまわれ右をした時、自然豊かな田舎の良さを守って大切にはぐくんでいるところが一番先頭になると思います」。

 

TEXT : MICHIKO TAKASAKI

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