イエルカさんのストーブ



「日本の侘び寂びの世界観に合う、素材を活かしたストーブをつくりたかった」
チェコ出身のイエルカ・ワインさんは、妻の悦子さんと伊那谷に暮らして30年。二人が何より大切にしてきたのは、自分たちの手でつくる暮らし。

車を走らせるにつれて、空と緑がどんどん近くなっていく。イエルカ・ワインさんと妻の悦子さんの家は、中川村の中心部から車で20分ほどの小さな集落にある。二人は30年前に大鹿村に移住し、その10年後にこの場所に移った。江戸時代の末期に建てられた古い民家を手直ししながら暮らしている。畑を耕し、無農薬で野菜を育て、自作の薪ストーブでピザを焼き、自ら土をこねてつくった食器に盛りつける。二人が大切にしているのは、自分たちの手でつくるということ。ただ、何でもつくればいいというわけではない。肝心なのは、そこに美しさがあるかどうかだ。

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イエルカさんが薪ストーブづくりを始めたのは、自分で育てたライ麦でパンを焼きたくなったから。大鹿村に住んで2年目のことだ。熱効率や空気の流れなどを研究し、3年がかりで今の形が生まれた。オーブン付きで、パンはもちろん、ピザやラザニアだっておいしく焼ける。「日本の侘び寂びの世界観に合う、素材を活かしたストーブをつくりたかった」と話すイエルカさん。鉄板を溶接してつくるストーブは、飾りのない美しさとその機能性が評判となり、北海道から九州まで、全国各地にお嫁に行ったという。「日本中あちこちで私のストーブは燃えてるね。すごくうれしい」と声が弾む。

悦子さんは、ヤギの毛を織って敷物をつくることを生業としている。28才で織物の世界に入り、31才の時にこの敷物に出会う。「これがやりたい」と強く思い、ひたすらに織り続けて36年になる。「やっぱりシンプルに素材が活かすことが一番。そう、食べものと同じね。アスパラをいい塩加減でさっと湯がいて、ソースをちょっとだけ付けるっていう」自然の色味が調和した悦子さんの敷物は、一枚の水彩画のようで見飽きることがない。「美しいものは心の栄養になるから」という悦子さんの言葉が重なって見えた。

 

TEXT : ATSUMI NAKAZATO  PHOTO : KENTA SASAKI

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中川村