お金を使わない生活こそ、美しさの原点



小渋川の最上流にある秘湯、小渋温泉。ここに唯一残る温泉宿が「赤石荘」だ。村人一人ひとりが自立することで、村も自立できる。熱き支配人の多田聡さんは、そんな確かな志を持ち、地域と一体となった〝循環型の宿づくり〞に挑む。
南アルプスの主峰、赤石岳の豪快な景色を間近に望む「赤石荘」。昭和48年に村営として開業し、経営難から一時閉鎖されていたところを多田聡さんの父親が引き受け、これまで営業を続けてきた。

Keywords:

木質チップボイラー エネルギーの地産地消 山奥

 

平成の大合併で合併の是非が問われていた05年、大鹿村は村人の反対多数によって、合併せずに自立の道を進むことになった。美しい村連合に加盟したのも、ちょうどその頃だ。「美しい村連合の理念である〝村の自立〞という言葉が、すごく心に響きました。自分ん家が自立しないと、村も自立できない」そこから多田さんは、村の自立を見据えた取り組みに本腰を入れ始める。

エネルギーの地産地消をめざし、間伐材などを活用した木質チップボイラーを導入。温泉加温や給油に利用している燃料を灯油から木質チップに転換した。いずれは村内でボイラー用チップを生産し、村の林業の活性化につなげたいと考えている。また遊休農地だった畑と田んぼを借りて、地元の人たちに野菜や米をつくってもらったり、川魚の養殖も試行錯誤を重ねながら取り組むなど、宿で使う食材を自給できる仕組みが、今ようやく完成しつつある。

「大鹿村の魅力は、〝すげえ山ん中にあること〞ですね。中途半端ではなく、めちゃくちゃな山奥だからこそ、歌舞伎も残ったと言われています。周りが高度成長していても、この村だけは取り残されてしまう、そんなところでずっとあってほしい」多田さんには、これからやっていきたいことがある。それは、村人がお金を使わなくても楽しく生活できるようにすることだ。「宿を開放して、歌舞伎やピアノ、歌など、それぞれが得意とすることを日替わりで披露する場を設けたり、みんなが楽しんで集まれる場をつくりたい。毎日ここで何かをやっていたいですね。それが村の自立にもつながるんじゃないかな」水道光熱費や食費など、お金がかかることに一喜一憂して暮らすという、既存のルールを変えることはできないだろうか。冬は薪ストーブで暖をとり、風呂も薪で沸かす。水は裏山の湧き水を飲み、野菜は自分たちでつくればいい。「医療費くらいしかお金を使わない。そんな生活ができることが美しい村だと思う」お金に換わる価値観を共有し、それぞれが自分の足で立つ。多田さんは、自ら思い描く村の未来に一歩ずつ近付こうとしている。

 

TEXT : ATSUMI NAKAZATO  PHOTO : KENTA SASAKI

長野県大鹿村

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